ゴミ屋敷の形成には、しばしば「ためこみ症(ホーディング障害)」という精神疾患が深く関わっています。このためこみ症、単なる片付けられない習慣ではなく、物を捨てることに対して強い苦痛や不安を感じ、それが過剰な物の蓄積につながる病気です。一体、何人に1人がこの病と向き合い、適切な支援を必要としているのでしょうか。ためこみ症は、かつて強迫性障害の一種と認識されていましたが、2013年にはアメリカ精神医学会が発行する『DSM-5』において独立した病気として正式に定義されました。欧米の調査では、一般人口の約2~5%にためこみ症の症状が認められるとも言われています。これを日本の人口に当てはめると、数百万人規模の人々がこの病に苦しんでいる可能性があり、決して珍しい疾患ではないことがわかります。ためこみ症の人は、ゴミとみなされる物であっても、何らかの価値を見出しており、手放すことが極めて困難です。そのため、本人にいくら片付けを促しても、その行動は一時的なものに終わり、根本的な解決には繋がりません。この病と向き合うためには、まず周囲の理解が不可欠です。彼らの行動を「だらしない」と非難するのではなく、「病気ゆえの症状である」と認識し、寄り添った支援が求められます。そして、精神科医や臨床心理士などの専門家による診断と治療が重要となります。認知行動療法や薬物療法を通じて、物をため込んでしまう衝動をコントロールし、物との付き合い方を変えていく必要があります。しかし、多くのためこみ症の人は、自分の状態を病気と認識しておらず、治療に繋がることが難しいという課題も抱えています。ゴミ屋敷問題の解決には、物理的な清掃だけでなく、その背景にある「ためこみ症」という病と向き合い、適切な医療的・心理的支援を繋げることの重要性を、社会全体で深く理解していく必要があるでしょう。