閑静な住宅街で平和に暮らしていたはずが、ある日を境に自分の家の庭や室内で、今までに見たこともないような虫の発生や、家族の体調不良に悩まされるようになる。その原因を辿っていくと、隣の一軒家が異様なゴミ屋敷と化していた、というケースは現代の都市部で頻発している悲劇です。隣家がゴミ屋敷になったとき、近隣住民が最も恐れるのは悪臭や景観の悪化だけではありません。実は、そこから溢れ出してくる「ダニ」や「害虫」による二次被害こそが、最も執拗で、かつ解決が困難な問題となります。ダニやノミは、ゴミ屋敷という巨大な発生源から、風に乗ったり、あるいは野良猫やネズミを媒介にして、周囲の住宅へと容易に侵入してきます。ゴミ屋敷の住人がベランダにゴミを溜め、窓を開けっ放しにしていれば、そこから飛散するダニの死骸や糞は、隣家の洗濯物や窓辺を汚染し続けます。近隣の子供たちが原因不明の喘息や皮膚炎を発症し、病院へ行っても原因が特定できないまま悪化していく。そんな目に見えない恐怖が、地域社会の平穏を根底から破壊します。ゴミ屋敷の住人は、自らの部屋が周囲にどれほどの生物学的な害を撒き散らしているかを認識していないことがほとんどです。住民同士の直接的な苦情は、感情的な対立を生み、かえって解決を遠のかせることもあります。ここで重要になるのが、自治体や保健所による公的な介入と、地域全体での防衛線です。ゴミ屋敷条例などの法的根拠に基づき、強制的な清掃や消毒が行われる際には、単にゴミを取り除くだけでなく、周囲の住宅地も含めた広範囲な殺虫・防除作業を検討する必要があります。また、地域住民が連携して、不用意に野良猫に餌を与えない、庭の草を刈るといった基本的な環境整備を行うことも、ゴミ屋敷からのダニの浸食を防ぐための重要な対抗策となります。一軒のゴミ屋敷は、地域の衛生レベルを数十年分後退させる力を持っています。しかし、それを批判するだけでなく、いかにして公的な力を動かし、専門の清掃業者による根本的な駆除を実現させるか。地域社会の団結力が、見えない敵から自分たちの生活を守るための唯一の盾となるのです。
ゴミ屋敷の隣人から見たダニの恐怖と地域社会の防衛線