賃貸物件を管理する立場の人間にとって、入居者の部屋がゴミ屋敷化し、その後に退去が発生するケースは、経営上の重大なリスクであり、かつ技術的にも極めて困難な課題となります。特にゴミ屋敷化した部屋におけるダニや害虫の被害は、その一部屋にとどまらず、建物全体の資産価値や他の入居者の生活環境を脅かす大きな脅威となります。ゴミ屋敷の住人が退去した後の原状回復において、通常のハウスクリーニングの感覚で臨むのは非常に危険です。不用品が撤去された後の空室状態であっても、壁紙の裏や床板の隙間、さらにはエアコンの内部には、天文学的な数のダニやその卵、そして死骸が潜んでいます。これらを完全に除去しないまま新しい入居者を迎えてしまえば、入居直後に「激しい痒み」や「アレルギー症状」を訴えられ、損害賠償や契約解除といった重大なトラブルに発展することは目に見えています。管理者としてまず行うべきは、特殊清掃を専門とする業者への依頼と、徹底的な空間殺菌・殺虫です。ゴミ屋敷特有のダニ被害は、一般的な殺虫スプレーでは対応不可能です。プロによる高濃度オゾン燻蒸や、熱処理、浸透性の高い特殊な薬剤散布を駆使して、部屋全体のバイオハザード状態を解除する必要があります。また、ゴミ屋敷の住人が長期間にわたって不衛生な生活を送っていた場合、ダニだけでなくゴキブリやハエ、さらにはそれらを媒介とする病原菌が建材の深部まで浸透していることが多くあります。壁紙の全交換はもちろんのこと、下地の石膏ボードまで汚染が及んでいる場合は、そこまでの解体撤去を検討しなければならないケースも少なくありません。特にダニの死骸や糞といったアレルゲンは、水拭き程度では除去できず、強力なHEPAフィルターを搭載した掃除機での吸引や、スチーム洗浄による不活性化が必要です。不動産経営において、ゴミ屋敷の発生は不幸な事故のようなものですが、その後の対応の質が、その物件が再び収益を生む資産として蘇るか、あるいは「事故物件」としての烙印を押されるかを分かつのです。目に見えるゴミがなくなった後の「目に見えない清掃」こそが、不動産管理者の手腕が問われる本番であることを、常に肝に銘じておく必要があります。
不動産管理者のためのゴミ屋敷退去後のダニと害虫対策