ある真夏の午後、私たちが呼ばれたのは、数年間一度も清掃が行われていないという、単身者向けアパートの浴室でした。ドアを開ける前から、廊下には鼻を刺すようなアンモニア臭とカビの混じった臭気が漂っていました。意を決して踏み込んだその場所は、かつての浴室の面影はなく、灰色のカビと黒いヘドロが壁面を覆い尽くし、浴槽の中には水を含んで重くなった紙屑や衣類がぎっしりと詰め込まれていました。窓がない密室タイプの浴室であったため、換気は完全に死んでおり、空気は重く、肌にまとわりつくような不快感がありました。今回の依頼主は、このままでは生活が破綻すると感じた若い男性でした。彼は恥ずかしさのあまり下を向いていましたが、私たちは「大丈夫、必ず綺麗になりますから」と短く告げ、作業を開始しました。まずは、水気を含んで腐敗が進んだゴミの搬出です。袋に入れるそばから汚水が滴るため、何層にも袋を重ね、床を汚さないように慎重に運び出します。ゴミがなくなると、そこには数年分の垢とカビが地層のように固着した床と壁が現れました。ここからは薬品の力を借ります。強いアルカリ洗剤を噴霧すると、汚れがドロドロと溶け出し、浴室全体が茶色い泡に包まれます。それを丁寧にブラシで擦り、水で流すという作業を何度も、何度も繰り返します。最も苦戦したのは、蛇口や鏡にこびりついた「石灰化した汚れ」です。水の中に含まれるミネラルがゴミと混ざり合い、岩のように硬くなっていました。これを専用のスクレーパーで少しずつ削り取り、酸性の薬剤で溶かしていくと、ようやく下から銀色の輝きが顔を出しました。排水口からは、想像を絶する量の髪の毛とヘドロが出てきましたが、それを取り除くと、ゴボゴボという音と共に水が吸い込まれていきました。それは、部屋全体が溜め込んでいた毒素を排出しているかのような、劇的な瞬間でした。すべての壁を磨き上げ、天井のカビを根こそぎ取り除いた後の浴室は、入室時とは全く別の世界に変わっていました。最後に消臭剤を噴霧し、空気を入れ替えると、そこには清潔な石鹸の香りが微かに漂いました。男性がその光景を見たとき、彼は信じられないという表情で立ち尽くし、やがて深く、深く頭を下げました。一つの汚れた風呂場が再生されることは、一人の人間が暗闇から光の中へと一歩を踏み出すことを意味します。この再生記録は、私たちが明日もまた現場へと向かう、最大の原動力となっているのです。